東京高等裁判所 平成2年(行コ)26号 判決 1990年11月21日
二六号事件控訴人、二八号事件被控訴人
オリエンタルモーター株式会社(以下「第一審原告」という。)
右代表者代表取締役
若林昭八郎
右訴訟代理人弁護士
中町誠
二八号事件控訴人、二六号事件被控訴人
中央労働委員会(以下「第一審被告」という。)
右代表者会長
石川吉右衛門
右指定代理人
渡部吉隆
外三名
第一審被告補助参加人
全日本金属情報機器労働組合東京地方本部オリエンタルモーター支部(以下「補助参加人」という。)
右代表者執行委員長
大池良三
右訴訟代理人弁護士
藤野善夫
同
後藤裕造
主文
A 二六号事件について。
第一審原告の控訴を棄却する。
B 二八号事件について。
一1 原判決主文一第1項のうち、本件中労委命令主文Ⅰ第3及び4項を取り消した部分を取り消す。
2 原判決主文一第2項のうち、右命令主文Ⅰ第5項(2)を取り消した部分を取り消す。
3 原判決主文一第4項のうち、右命令が右1及び2に関する第一審原告の再審査申立てを棄却した部分を取り消した部分を取り消す。
4 第一審原告の右1ないし3に関する請求を棄却する。
二 第一審被告のその余の控訴を棄却する。
C 訴訟費用について。
訴訟費用及び参加費用は第一、二審を通じて二分し、その一を第一審原告の負担とし、その余を第一審被告及び補助参加人の負担とする。
D 原判決主文一第1ないし3項の「主文」を「主文Ⅰ」に更正する。
事実
第一 当事者の求めた裁判
A 二六号事件
一 控訴の趣旨
1 原判決中第一審原告敗訴部分を取り消す。
2 第一審被告が中労委昭和五三年(不再)第四号事件について昭和六二年五月二〇日付けでした命令中、第一審原告の再審査申立てを棄却した部分を取り消す。
3 訴訟費用は第一、二審を通じ、第一審原告と第一審被告との間に生じた分は第一審被告の負担とし、第一審原告と補助参加人との間で生じた分は補助参加人の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却
B 二八号事件
一 控訴の趣旨
1 原判決中第一審被告敗訴部分を取り消す。
2 第一審原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。
二 控訴の趣旨に対する答弁
控訴棄却
第二 当事者及び補助参加人の主張(両事件、以下同)
原判決四頁末行目から一〇行目までを引用する。ただし、同三二頁四行目の「第二」を「第三A」に、九行目の「第三」を「第三B」に改める。
第三 証拠<省略>
理由
第一救済命令の成立については、当事者間に争いがなく、当事者については、原判決四〇頁五行目から一〇行目までを引用する。
第二不当労働行為の成否について。
一就業時間中の組合活動の範囲に関する団体交渉の拒否について。
原判決四一頁二行目から同四九頁四行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。
1 原判決四六頁三行目の「あり」を、「あるが、補助参加人は、この点について、千葉地労委に不当労働行為救済の申立てをしていたので、その成り行きをみたい、なお」に改める。
2 同四九頁一行目の次に、次を加える。
「一般に、労働者は、労働契約の本旨に従って、その労務を提供するためにその労働時間を用い、その労務にのみ従事しなければならない。したがって、労働組合員である労働者が使用者の承諾を得ないで労働時間中にした組合活動は、原則として正当なものということはできない。しかし、そのことは、労働協約等労使間で別段の合意をし、右合意の趣旨にそった運用がされることを妨げるものではない。したがって、就業時間中の組合活動の許される「必要最小限」の内容について、具体的な話合いを尽くさないまま、前示のとおり、団体交渉に応じない第一審原告に対し団体交渉に応じるよう命じることは、右と矛盾するものではない。」
二 人事異動に関する団体交渉の拒否について。
原判決四九頁六行目から同五六頁五行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。
1 原判決五一頁五行目の「二〇日、」の次に、「組合員の労働条件で労使間で協議すべき事項については、その申入れにより協議するにやぶさかではないが、」を加える。
2 同五四頁一〇行目の「申入れにも」の次に、「(文言上、八月一七日付け申入書には「人事異動の件」、二三日付け申入書には「八月一日付け人事異動の件」と記載されたのみであったが)」を加える。
三組合事務所の設置、貸与に関する団体交渉の拒否について。
原判決五六頁七行目から同七〇頁末行目までを引用する(ただし、原判決五六頁末行目の「第三二号証の一、」の次に、「丙」を加える。)。
四組合集会等のための食堂使用について。
原判決七一頁二行目から同七九頁一〇行目までを引用し、その次に、次を加える(ただし、原判決七一頁六行目の「原告」を原本に改める。)。
「しかし、そのことと、第一審原告が、右以後継続的に補助参加人の食堂の使用を拒否し続けることが正当であるか否かは、別論である。なぜなら、補助参加人は、第一審原告の物的施設内をその組合活動の主要な場とせざるを得ないのであるから、前示の、第一審原告に組合事務所が貸与されていない現状において、前示の程度の事実があったからといって、食堂の使用を、一時的にはともかく、一切拒否し続けるならば、補助参加人の組合活動を著しく困難にすることが明らかであり、第一審原告の補助参加人に対する前記昭和五一年四月五日の食堂使用不許可の回答以後の第一審原告の対応は、組合運営に対する支配介入に当たるものというべきである。なお、補助参加人は、右のとおり食堂の使用を一度許可されなかった後は、第一審原告所定の使用許可願用紙を勝手に書き換えた使用届を提出し、第一審原告の許可を得ることなく食堂を使用するようになり、これを第一審原告が食堂に施錠するまで五か月近く続けており、それは第一審原告の施設管理権に対する侵害というべきであって、正当な行為ということはできない。しかし、前示の事情の下にあっては、右のような補助参加人の行為があったからといって、第一審原告の食堂使用拒否が正当とされることにはならず、第一審原告が補助参加人に食堂の使用を一切不許可としたことは、施設管理権の濫用に当たるというべきである。
また、補助参加人の支部大会及び分会大会以外の会議又は集会のためにする食堂の使用許可の範囲については、明確な協定が成立していないことが明らかであるから、この点について、更に団体交渉を尽くさせる必要があるというべきである。
したがって、本件命令主文Ⅰ第4項の救済命令は正当であり、これを違法として取り消されるべきであるとした原判決の判断は採用できない。」
五組合加入状況の調査について。
原判決八一頁七行目から同八六頁一〇行目の「である。」までを引用し、その次に、次を加える。
「しかし、三六協定の締結当事者としての適格性を有しているか否か、すなわち、補助参加人が従業員の過半数の組合員によって組織されているか否かは、組合加入の有無について無記名秘密投票の形式によって調査すれば判明することであって、あえて、各個の従業員について組合加入の有無を調査しなければ判明しえないものではない。確かに、補助参加人としても、過半数の従業員が組合員となっていると主張する以上、その点を証明すべきであり、したがって、組織率を明らかにするなんらかの方法を提案する必要があるのに、この点を怠って、単に組合員名簿の提出を拒むことに終始した態度は、遺憾といわなければならない。しかし、そうであるからといって、第一審原告の前示の行為が当然に正当化されることにはならない。第一審原告が、右の無記名秘密投票の形式をとることなく前記のような記名式の調査票を交付したことは、組合員の氏名を知ろうとした行為であり、そのような行為は組合員に動揺を与え、組合の弱体化を図るものであって、支配介入に当たるというべきである。したがって、これと同旨の理由に基づいて発せられた本件命令主文Ⅰ第3項及び第5項(2)の救済命令は正当であり、これを違法として取り消されるべきであるとした原判決の判断は採用できない。」
六新入社員教育における組合誹謗について。
原判決八九頁四行目から同九二頁四行目までを引用する。ただし、次のとおり訂正する。
原判決九二頁二行目の「い。」の次に、次を加える。
「また、成立に争いのない丙第三四号証によれば、堀越は、自身の著書「事例からみた経営労務の実際」の中で、第一審原告の新入社員教育の件ではないかと認められる事実に触れているが、そのことも、前示判断を左右する程に第一審原告と堀越の結びつきを推認させるものではない。」
七一時金の念書及び受領書の配布について。
原判決九二頁六行目から同一〇一頁五行目までを引用する。
八組合脱退工作について。
原判決一〇一頁七行目から同一〇四頁一行目までを引用する。
第三結論
以上の理由により、二六号事件については、民訴法三八四条、二八号事件については、同法三八六条、三八四条、訴訟費用及び参加費用の負担については、同法九六条、九五条、八九条、九四条、更正については同法一九四条を各適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官武藤春光 裁判官吉原耕平 裁判官池田亮一)